Social theme books 第3回「こうして世界は誤解する」
「留めておきたい本のこと」改め、「Social theme books」第3回の更新です。
今日はこちら。「こうして世界は誤解する」英治出版、ヨリス・ライエンダイク著。
こうして世界は誤解する――ジャーナリズムの現場で私が考えたこと
- 作者: ヨリスライエンダイク,田口俊樹,高山真由美
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2011/12/19
- メディア: 単行本
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この本は、もともと「ほぼ日刊イトイ新聞」の以下のリンク先から知った本だった。
http://www.1101.com/zero_journalism/
リンク先の記事をの中にこんな一文がある。
「あと、インターネットが発展したことで、できるようになったことのひとつが、「ゼロからはじめられる」ということです。
例えば、今、私は金融の取材を続けていますが、まったくなにも知らないところからはじめて、これを2年間続けていったら、ある程度、金融について語れるくらいにはなれるんじゃないかと思ってます。
で、そのゼロからはじめますよというところから全部を見せていけるのも、インターネットならではですね。 」
そうか、ジャーナリストにはそういう可能性もあるのか、と思い、本を購入した。
なかなか読み応えのある本で、言い換えれば読みづらい部分もある本で、なかなか読むのに苦戦したのを覚えている。今回再読したが、やはりその印象はあった。でも、それだけの価値のある一冊である。
著者は、「報道特派員」として中東に滞在した。
スーダンの紛争、9・11テロとその後につづくイラク戦争、
長期独裁政権が続くエジプトやシリア、そして永遠に思われる泥沼状態のエルサレム。
この本の著者は、世界中から"注目"を浴びる最前線にいながら、
月日とともに実感したのは「自分が真実を伝えていない」ということだった。
そのジレンマに悩まされながら、「ゼロからジャーナリズムを始める」というアイデアに彼は至る。
あとがきから一部引用する。
「オーケー、きみの本の内容を一文で説明してくれ。
私はこう答える。
あるひとつの状況を一文で説明するのは不可能である、ということを書いた本だよ。」
この後、ジャーナリズムが改善すべき5つの点を挙げるのだが、それは実際に本を読んでみてほしい。
その後にはこんな一文が続く。
「最後に、パラドックスについて書いておきたい。本書にも、報道界全体に当てはまるのと同じ歪みがある。この本を書いたとき、観点をひとつに絞って物事を提示するために多くの事柄を除外し、単純化しなければならなかった。だから、私もまた読者を操作しているのだということを、どうか心に留めておいていただきたい。避けられないことではあるのだが、私としては正直に言っておく必要があるだろう。」
どうだろう、この正直さ、この勇気。
何かを真摯に伝えようとするとき、正直さと勇気は不可欠だが、
それを同時に必要なレベルで持つことはとても難しいと思う。
それを正直に提示した著者に敬意を表したい。
と同時に、この本の紹介サービス「Social theme books」の可能性と限界についても触れておきたい。
このサービスは、社会的なテーマに沿った本を厳選してご紹介するというものである。
品質が確かなものであるかどうかは、読者というかこのサービスの受取手に判断は任されている。
もちろん、僕自身はきちんとした本を誠実に届けたいという思いで書くが、
僕というフィルターを通すことで失われるエッセンス、取り上げられなかった本も出てくる。
そして、紙あるいは電子の本を読むということは、あくまで二次情報に触れているにすぎない。
今回紹介した「こうして世界は誤解する」の著者に言わせれば、
それは世界の真実を知っているということにはならないのではないか。
そういう、自分自身の活動の限界みたいなものを今回感じた。
が、しかし。
確かに、愚にもつかない紙の本を読むくらいなら、有益なネットの記事やツイートを読むことの方が、よほどその人や社会のためになる。そういう時代が来ていることは確かだ。
しかし、それでも一冊の本を読むことに、まとまった一冊の本を読むことには、
それだけのコスト(時間的、金銭的、様々な)を払うだけの価値があると信じている。
読書には、それだけの価値があると信じているからこそ、
このサービス「Social theme books」を始めようと、そして続けようと、
改めて思った。
今回は3回目だけど、とりあえず松岡正剛氏の10分の1、
連載100回、100冊の本を紹介することを、当面の目標としたい。
マイペースに頑張ります。
それでは、また次回の更新で。